コペンハーゲン便り21(学校訪問5-3)
Tolne Efterskoleの教育について続けます。
デンマークにはproduktionsskoler(生産学校)という学校があります。最近、大串隆吉先生ほかの方々によって日本にも紹介されてきています。私は4年ほど前に何人かの研究者や若者支援実践者の方々と一緒にデンマークの生産学校を数校訪問したことがあります。そこで行われていた教育実践がワークショップというものでした。調理・レストラン、建築、金属加工、ヘアメイク、ハンドワーク/デザイン、家具・木工など、学校によって内容はことなります。アートや演劇、サーカスなどを取り入れているユニークな生産学校もありましたが、通常は何らかの仕事をテーマにしています。高校や職業学校を中退し、何らかの困難な状況にある者がやり直すための学校で在学期間は1年(中退者が全員来るわけではない)。仕事をテーマにするからと言って、その技能を身につけて就職させようとしているわけではない(たとえばヘアメイクを勉強して美容師になるわけではない。それになるにはもっと長い教育期間が必要である)。次の進路を見つけるための一時的な回復・充電の場なのである。
私はワークショップは生産学校独自の実践方法と思っていたが、それと同じ方法がSpecial Efterskoleでも用いられていたことを今回の訪問で知りました。またNiller先生の前職のPMUを調べると、ここも障害をもつ若者向けの教育機関でしたが、やはり類似した方法がとられているようです(学校HP等より)。デンマークでは、私が思っていたよりもワークショップが広く根付いているようです。
ただ、Tolne Efterskoleの先生に聞くと、生産学校のワークショップは職業的なものである、ここのものはもっと教育的であるということでした。生産学校のワークショップと本校のワークショップではテーマが違うし、生産学校が義務教育後の若者を対象にしているのに対して、ここは義務教育段階であるため、やはり意識している点が違うということなのでしょう。
たとえば、Niller先生は音楽を担当していますが、音楽を通して言葉や数字を学ぶことができると言います。ドラマ先生は台本の読み書きを通してデンマーク語を学ぶことができると言います。他のワークショップでも、一般教科の内容を度外視してはそこでの作業を行うことができないでしょう。ワークショップでの活動を通して義務教育の基礎的な教育内容を獲得させることが意識されていました。
またこの学校に来る子どもたちは、多くの場合、自己肯定感が低いため、それを回復させることが学校の課題となります。ドラマの先生は、ドラマは単に演技をすることが目標なのではなく、ドラマで自分の役割を与えられて自分がいないと劇がなりたたないこと、協力しあうこと(togetherness)を学ぶ、また役を演じることでパーソナリティを形成できると言っていました。乗馬の先生は、馬をうまく乗りこなすことで生徒にできたという自信を与えることができると言います。乗馬ワークショップでは、馬の世話は1日も休めないが、それを通して役割と責任を学んでいくことができる。役割を果たす、何かをやりとげることを通じて自信をつけるという点では音楽でも他のワークショップでも同じでしょう。
本校は2年制課程と先に書きました。1年目は2-3人部屋に居住するのですが、2年目になると、敷地内にある生徒用の家に移り、5-8人で共同生活をします。生徒たちが社会に出たときに自立的な生活ができるように、ここで家に住み、家事を自分たちでできるように学んでいくのです。現在生徒用の家は6軒あります。これらの家はもともとは公立学校だったときに教員たちが住んでいた家だそうです。中を拝見しましたが、なかなか立派な内装の家でした。
本校はこのようにして生徒たちにワークショップを用いた学び提供し、自信の回復を図り、自立できる生活能力を獲得させる教育実践に取り組んでいるのでした。
(写真は、生徒用の家とその内部、黄色い外壁の家は農業・乗馬ワークショップの生徒の居住する家(ここで寝泊まりして毎日動物の世話をする))