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コペンハーゲン便り18(学校訪問4-4)

 今回がFrijsenborg Efterskoleの最終回です。

 もう少し生徒について続けます。本校は以上のような生徒の他に、難民の生徒も受け入れています。私が行った時にはシリアからの難民生徒が3名、アフガニスタンからの難民生徒が1名いました。本校は、第二言語としてのデンマーク語を学べるプログラムを置いています。たまたま夕食のときに、アフガニスタンの難民生徒のサポートをする地域自治体のソーシャルワーカーの人が来ていました。この生徒は2年半前にデンマークに来て、フォルケスコーレ(公立学校)に通っていました。しかし、このエフタースコーレには上のようなプログラムがあり、また毎日生徒や先生とデンマーク語を話すことになるので、デンマーク語を覚えるのに最適なのだ、すばらしい機会を本校にはもらっているとソーシャルワーカーの人は言っていました。また私が滞在した2日目には、グリーンランド人(デンマーク領だが)の親子が見学に来ていました。

 以上のように書くと、本校にはこうした困難な状況にある生徒やマイノリティばかりが来ているように思われるかもしれません。しかし、そういうわけではありません。ちょっと会った印象にすぎませんが、校内ツアーをしてくれた女生徒2人は大学生かと思うような話しぶりであり、またインタビューした生徒の中にもよい環境で育ってきたと思われる生徒たちがいました。ある生徒は障害や困難を抱えている人たちを支える仕事に関心があったのでここに来たと言っていました。

 インタビューで進路を聞くと、難聴やちょっと厳しい状況にあった生徒は迷っているようでしたが、他の生徒は自分たちの将来に不安はない、むしろ将来のことを考えるのはとてもエキサイティングだと回答します。高校入試はなく、基礎学校の最終試験で低いランクの成績を取らなければ入ることができる、それはそう難しいことではないし、高校にはランキングもなく、定員も十分に余裕があるように設定されている。日本では老後に不安を覚えている人が多いと言うと、63歳から年金がもらえるので(現在9000kr=15万円)、特に不安を感じないということでした。

 2日目の朝の集会の後、授業見学をしました。9年生の数学では、一次関数の問題を解く授業が発問を適宜入れる形で進められていました。難聴の生徒もごく普通に授業を受けています。次の10年生のサイエンスはちょうどプロジェクト学習のプレゼンの授業でした。3人がチームになって調べ、4チームの発表がありました。現在のプロジェクト・テーマは何と東日本大震災と津波、そして原発事故です。サイエンスの教室には、プレートのずれで発生する地震の発生メカニズム、原発の世界分布や廃棄物の問題、4年後の福島の状況などを調べた結果が紙に書かれて貼られています。この日のプレゼンは、チームごとに放射線を通しにくい物質を調べた結果をもとに、装置で実演しながら発表するものでした。また別のサイエンスの授業では、水槽に砂と水を入れてツナミが発生する様子を調べる授業が行われていました。

 エフタースコーレは教育方法の自由が認められています。本校は、教科書は使わず、複数の教員がチームでシラバスを作ります。サイエンスは生物化学地学物理を総合した科目です。社会や歴史という科目はないが、シティズンシップという科目があり、これとデンマーク語やメディアの授業を関連させて幅広く社会科の科目を教えているようです。

 時間割から計算するとおよそ3分の2の時間を一般教科に使っています。エフタースコーレというと多様なアクティビティが注目されるのですが、けっしてそればかりをやっている訳ではありません。そもそもエフタースコーレは義務教育課程であり、法は公立学校と同等の教育目標を満たすよう要請しており、また生徒は高校進学を控えているわけですから、一般教科をまったく顧みないというわけにはいきません。本校はアカデミックな科目(一般教科)とノンアカデミックな科目(メインサブジェクトなど)は等しく重要であり、全人的な発達(a well-rounded person)を教育目的に掲げるとしています。

 ただ、デンマーク語、ドイツ語、数学、体育、シティズンシップ、サイエンス、それに6つのメインサブジェクト科目など多様な科目があり、しかも生徒は多様であるのに対して、教員は20名ですから、教育内容の細分化や体系化には限界があると思われます。 しかし、それにも関わらず、本校に生徒たちが集まってくるのにはやはり本校の教育実践が生徒たちの成長に有効に作用していると認められているからでしょう。複数の生徒たちから、ここは教師と生徒の関係がまったく違うのだと聞きました。学力にしてもここに来て飛躍的に伸びるのだと教師たちは言っています。

 校長はtrustとresponsibility が重要だと言います。PISAの影響を受けて学校への数値評価を強化している国の教育政策への疑問、そしてイジメなどの問題状況に対処できない学校のあり方への批判がその背後にあると私は理解しました。

 ちょっとした出会いで本校に訪問することになったのですが、とても素晴らしい学校に巡り会えたと思います。(写真は、9年生の数学の授業、10年生のサイエンスの授業、サイエンスの教室に貼られた福島原発についての資料の1枚、「エフタースコーレの1年は7年に相当する」(宿直のMette先生に、たくさんのアクティビティと一般教科の学習の両立はできるのかと聞いたら、こんなふうに言われているのだと紹介してくれた言葉。)

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